ゆっくり人生

不登校や引きこもりを経験しながら、現在は研究者の登竜門的存在である日本学術振興会 特別研究員(DC1)を務める大学院生のブログ

【研究倫理】「サラミ論文」の線引きはどこ?

どうも、ユモクです。

今回のテーマは「サラミ論文の線引きはどこ?」というものです。研究者向けの内容ですね。

サラミ論文を簡単に説明しますと、「一つの研究として出版可能な研究を、複数に分けて発表している論文」のことを指します。「サラミ出版」という言い方の方が馴染みのある方もいらっしゃいますかね。

業績数の水増しに利用されることに加え、論文にアクセスしたい人を混乱させる行為でもあるため、研究倫理に抵触する行為であり研究者の中では控えるべきものとして常識です。

 

研究倫理に抵触することのリスクは、以前博士号剥奪に関する記事を書いたときにも少し説明しました。

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さて、このサラミ論文ですが、非常に線引きが難しいものです。

そもそも「一つの論文として出版可能か」という基準が曖昧。

基準として「使っているデータセットは同じものか?」というものがありますが、「同じデータセットを使った研究を複数分けているものは全てサラミ」という訳では決してありません

 

例えば、データセットが同じでも

・そのデータセットが膨大な量で一つの論文とするのは難しい(一つの論文で全部を扱おうとすると、テーマが散漫になるので逆に適切でない)

・研究の問いが全く異なる

・追加分析し異なる二次的所見を得られた

・後に発表されている論文において、前の論文が適切に引用されて論文の関連性・差異性が十分に説明されている

……などの場合、それらを新たな論文として発表しても、前の論文との差別化がきちんとはかられていればサラミ論文には該当しません。

 

つまり、明確に「これはサラミ論文!」と断言することは難しいです。

そういう事情もあって、「これらはサラミ論文か否か?」と意見の分かれる二つの論文が、僕の仲間の大学院生内にあります。

今回はそれを事例として「サラミ論文の線引きはどこにあるか?」を考えていきたいと思います

 

最初に断っておきますと、この記事の目的はサラミ論文の基準を考えること、それだけです。

そのため、具体的な論文は出さず、特定できないような形で書いていきます。

また、「もしかしてこの論文のこと?」みたいな詮索も控えていただければ幸いです。

このブログ記事で特定の研究者を貶める意図は一切ないので、よろしくお願い致します。

 

 

「サラミ論文」疑惑のある二つの論文の内容

サラミ論文として疑惑のあるものを、学会Aの査読を通過して掲載された論文aと、学会Bを通過して掲載された論文bとします。

論文aは論文bより投稿締め切りも学会誌の刊行も先でした。

 

この二つの論文になぜサラミ論文疑惑があるかと言いますと、

二つの論文で用いられているデータセット→同じ

研究手法→同じ

独立変数→同じ

従属変数→異なるが、論文aと論文bで従属変数とされている二つには因果関係が成立すると考えられる

と類似点が数多くあることが原因です。

 

 

サラミ論文と考える側の意見

この二つの論文をサラミ論文だとする人は、「データセット・研究手法・独立変数が同じというのはどう考えてもサラミ」「従属変数は違うかもしれないが、その二つに関係性があるのだから二つの論文の差異も不十分であり、論文を分けて発表するほどの二次的所見が後発の論文bにはない」ということ。

 

また、二つの論文の問いが全く異なっている訳でもありません。当然、違う問いとはなっていますが、類似性は高いです。

それぞれの研究で結論で主張していることもほぼ同じ。同じデータセットを用いて因果関係があるものを分析しているのだから結論が同じになるのはある意味当然のことですが…

 

そして、二つの論文の締め切り・刊行日はほんの1-2ヶ月しか離れていません

追加分析ではなく、「同時進行していた分析を二つに分けてそれぞれ別の学会誌に投稿した」と捉えられても仕方ない状況です。

 

以上が、サラミ論文と考える人たちの意見です。

 

 

サラミ論文ではないとする側の意見

まず、「発表順で後発となっている論文bでは、論文aとの関係性について言及されている」ということ。二つの論文の関連性を明確に示しているのでサラミ論文には該当しないという訳です。

実際、学会によっては「類似すると思われる論文を投稿する場合、二重投稿(同様の論文を同時期に別の学会に投稿する)を避けるために、その論文との関係性を明確にして投稿すること」をしていれば、論文の投稿を認めている学会もあります。

 

そして、「その上で、学会Bの査読を通っているなら問題ないだろう」とする意見。

学会誌への掲載権限はその学会が握っており、その基準をパスしているのであれば問題ないだろう、ということです。

 

まとめると、「論文bは、論文aとの関係性を明確に示した上で学会の査読をパスしているのだから問題ない」という意見です。

仮に二つの研究が似たような研究であっても、十分な差異が示されていればサラミ論文と言うべきではないでしょう。

 

 

擁護意見は正しいか? 

ただ問題は、論文b内で書かれている論文aとの差異が説得的ではないこと。

「二つの論文の差異は重箱の隅を突くようなものでしかなく、二つの研究に分けて発表するほどの重要性を示せていない。問い・結論が酷似しているのがその証拠」との意見もありました。

つまり、「学会Bが査読を通したことが理解できない」ということ。

 

このように、「たとえ学会が認めている論文であっても、研究倫理の原理原則に立ち返るとサラミ論文と考えるのが妥当」との意見もある訳です。

そのため、「果たして論文aと論文bはサラミ論文と言えるのか?」という議論に着地点は見出せていません

サラミ論文か否かの基準が曖昧、かつ学会の査読を経ている以上、論文の取り下げなど問題化することはないのかなと思います。

 

 

結論:疑惑が持たれるような行為はしない方がいい

この件からの教訓は、「同じデータを用いた研究を、複数に分けて別の学会誌に同時期に公表することは避けるべき」ということでしょうかね。疑いを持たれるような行為はしないに越したことはないです。

 

今回の件で僕がちょっと気になっているのが、学会Aの反応なんですよね。すぐに類似の論文が別の学会誌に掲載されることは知っていたのでしょうか…?

 

投稿論文には基本的に字数制限があるので、それを守りつつ、一つの論文を仕上げることは難しいです。

しかし、似たような研究を別々の学会に同時期に投稿したらサラミ論文や二重投稿を疑われて仕方ないかと。

時期を分け、同じ学会に投稿するなら先報の論文のことも熟知しているという前提で、投稿者も学会も読者も受け止められるかもしれませんが、別の学会への投稿だとそうは言い切れないため、避けるべきでしょう。

 

これが僕にとってのサラミ論文の線引きだと思います。

「同じデータを元にした研究は、複数に分けて公表するようなことはしない」

「もしデータの量が膨大になって分割の必要が出た場合、それをきちんと説明した上で同じ学会誌に投稿するようにする」

 

特に大学院生だと早く業績を積み重ねたい(博士号取得のためには業績が必要なため)ので、複数の学会にどんどん投稿したい気持ちが働くでしょう。

しかし、この一線は超えないようにしたいです。

 

今回の事例のように「同じデータセットの同じ独立変数を用いて同様の手法で研究を行い、別の学会に同時期に投稿する」という行為はリスキーだと思います。

このように(大学院生の仲間内という非常に狭いコミュニティとは言え)疑惑を持たれる結果になっています。

また、研究倫理違反があると問題視されたら、後に論文が取り下げられることだってありえます

 

僕は研究は信用の世界だと思っています。

問題化までしてしまうと、その後のキャリアに悪影響が出ることは必然です。

今回の事例が問題になることはないでしょうけど、リスクのある行為ではあるので反面教師にしたいと思います。

科学に対して誠実であり、謙虚であることそれが研究者に必要な資質でしょう。

 

※僕は若手研究者として、研究倫理についての勉強もしていますが まだまだ未熟だと思います。今回の記事に関して指摘等あれば、いただけると大変ありがたいです。

 

 

おしまい

 

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